ワルツ。

ポルカ。

行進曲。

踊る旋律。

一定のテンポで揺れる車内はまるで、そのリズムを取っている様で……

音楽データーが入ったポッドに置かれた彼の手に私は無言で自分の手を重ねていた。

曲はちょうどポルカ観光列車――と画面に題名が出ていただけなんだけど、

私達が乗るのは単なる鈍行電車だけど……私の気分は音楽と同じ様に軽やか……景色は輝いて見える(本当は外はもう真っ暗だけど)。

音にあわせてほんの少し震える由岐さんの手と、私の手。

重ねた手と手の温もりを感じるその瞬間に、音楽はまた軽快さを増していく。

「本当にいろいろ知ってるんですね……」

「あー。昔ね母親が厳しかったからさ、ピアノとかまで習わせたんだよね」

「ピアノ弾けるんですか?」

「少しだよ本当に少しね」

「どんなの弾かれるのですか?」

「どんなだろ……よく分からないけど……最後に弾いた曲はリストだったかな……もうめちゃちゃ難しくてさ」

「今度弾いてください」

「いや、さすがにリストはもう弾けないよ。 それ以外だったらまぁ……どんな曲が好み?」

「え? クラシックとか良く分からないんで……良く分からないのですけど……そうだラ・カンパ……」

「いや……ラ・カンパネッラのピアノバージョンがリストだから……もともとあれだって超絶技巧練習曲だし」

「そ、そうなんですか?」

「なんかさ、もう少し簡単なの……そうだキラキラ星とか?」

「あ、それいいですね」

「あいや……今のは、なんでそんな簡単な曲なんだーってつっこむところで……」

「だから分からないんですって」

「そうか……うーん何がいいかなぁ……」

「まぁ、いいや、気が向いたらなんか頼んでくれるかな」

「くす、くす……そうですね……それが良いかもしれませんね」

※サンプルシナリオは製品より一部抜粋編集してあります。ご了承下さい。